・胆嚢粘液嚢腫の検査と治療法及び治療費
・胆嚢粘液嚢腫の予後
犬の胆嚢粘液嚢腫とは
胆嚢粘液嚢腫は、胆嚢の中にゼリー状に変性した粘液物質が多量に溜り、正常な胆汁の流れを妨げます。胆嚢内の物質が多くなり胆嚢壁を内側から圧迫することで胆嚢壁が薄くなり、壊死していきます。
内圧に耐えきれなくなると壊死した部分から内容物が腹腔内に漏れ出し(胆嚢破裂・穿孔)、胆汁性腹膜炎を発症すると命を落とすこともあります。
好発犬種
胆嚢粘液嚢腫の好発犬種と言えば、体質的な面から見て、ミニチュアシュナウザー・シェルティ・チワワ・ポメラニアンなどがよく取り上げられていますが、どんな犬種でも発症する危険性はあります。
ある統計によると胆嚢摘出をした394例の中で粘液嚢腫が224例(57%)と最も多く次いで胆嚢炎が166例(42%)でした。
胆嚢粘液嚢腫による胆嚢摘出 224例の犬種別統計 ( )内は頭数
・チワワ(22)
・柴(21)
・ミニチュアシュナウザー(21)
・ミニチュアダックスフント(21)
・シェルティ(18)
・トイプードル(18)
・アメリカンコッカースパニエル(14)
次いで、ヨークシャテリア・シーズー・パピヨン・パグ・・・と続いており、幅広い犬種で認められることが分かります。
参考:サンリツセルコバ検査センター
犬の胆嚢粘液嚢腫の症状
胆嚢は異常があっても症状のでにくい臓器の一つです。
許容量も多く、神経も走行していないために胆嚢自体は「痛み」を感じません。目いっぱい耐えて、限界を超えると急に深刻な症状が出てくるのが一般的です。
【胆嚢の働きと胆汁の流れ】
胆嚢は肝臓に挟まれるような形で位置している小さな袋状の臓器で、肝臓で生成された胆汁を一時的に溜めて濃縮、食べ物が胃から送り出されるタイミングで収縮して胆汁を十二指腸に分泌します。
つまり胆汁を排出するポンプのような役割をしています。
胆汁は脂肪を乳化して消化を助け、便の色は胆汁に含まれる色素が関係しています。
肝臓で作られた胆汁は
という流れをとり、最終的には小腸で吸収されてまた肝臓に戻っています(腸胆循環)。
【胆嚢粘液嚢腫とは】
何らかの原因で、胆嚢の粘膜が胆嚢内にゲル状の粘液を大量に分泌します。それがゼリー状に変質して、胆嚢壁から中心に向かって溜まっていくことで、胆汁の溜まるべき胆嚢が粘液の塊に占拠されます。
- ゼリー状物質の正体
- 胆嚢粘膜から分泌されるネバネバとした物質(ムチン)が過剰に分泌され胆嚢内に溜まって変性したものです。色は黒色に近く、流動性がなく、ちょうど海苔の佃煮のような形状をしています。粘液は透明なので、黒色は胆汁の色素に起因するものです。ムチンは全ての粘膜から分泌され潤滑剤の役割を持ち、粘膜の保護や病原体の感染を防ぐ役割を持っています。
【胆嚢粘液嚢腫の症状】
胆嚢粘液嚢腫と診断されても、胆汁が排泄されている間は無症状です。
進行すると・・・
・ゼリー状物質が胆嚢を埋め尽くす
・胆嚢の収縮力が低下
・胆嚢壁が内部から圧迫される
・胆汁がうまく流れることができずうっ滞
【症状】
非特異的な消化器症状
・食欲不振
・元気消失
・嘔吐
・腹痛
・軟便 など
肝機能障害(肝酵素の値が上がる)
最終的には胆汁の通り道である胆管にもゼリー状の物質が入り込んで胆汁の流れを妨げます。
・総胆管が完全閉塞
【症状】
・黄疸
・元気がなくなる
・食べれなくなる
総胆管が詰まると胆汁が血液内に逆流して全身を巡るため黄疸が見られるようになります
さらに、胆嚢内にゼリー状物質が目いっぱい溜まると・・・次のような状態になります。
・胆嚢壁を内部から圧迫
・胆嚢壁が薄くなる
・胆嚢壁の虚血 壊死
・胆嚢壁の穿孔や破裂
胆嚢や総胆管が破れて胆汁が腹腔内に出てしまうと胆汁性腹膜炎を合併します。胆汁はアルカリ性で非常に刺激が強い消化酵素で、強度の腹膜炎(胆汁性腹膜炎)をひき起こします。
腹膜炎の症状は非特異的
・急に元気がなくなる
・嘔吐
・激しい腹痛 など
昨日までは元気だったのに朝にはぐったりしているというような状況になります。元気で暮らしていたのに、突然症状がでる、しかも危機的状態になっている、というのがこの病気の恐ろしいところです。
重症化すると腎不全・多臓器不全・DIC(播種性血管内凝固症候群)など、重篤な合併症を引き起こすこともあります。
胆嚢粘液嚢腫で最も危険な状態は
・総胆管完全閉塞
・胆嚢破裂
命に係る危機的状況・早急な治療が必要です!
胆嚢粘液嚢腫と診断された犬の約1割が胆嚢破裂を起こすと言われています。
犬の胆嚢粘液嚢腫の治療方法と治療費
胆嚢粘液嚢腫は症状による早期発見は難しく、気づいた時には深刻な症状になっていることが多い病気です。
治療のタイミングを逸すると命を落とすこともある恐ろしい病気です。
一方で超音波検査をすれば早期発見が可能です。
進行速度は非常にゆっくりと長期間かかって進行する場合もあれば、数週間から数カ月で急速に進む場合もあるので「なってみなければわからない」というのが現状です。
胆嚢粘液嚢腫の原因
胆嚢粘液嚢腫は原因のはっきりしていない疾患の一つです。しかし原因の可能性として挙げられるのは以下のようなものです。
・基礎疾患( 甲状腺機能低下症 糖尿病 膵炎 肝や胆道系の疾患 高脂血症 )
・体質や遺伝的要因及び犬種
検査・診断方法
胆嚢粘液嚢腫で主に行われる検査
・エコー検査
血液検査:白血球・CRP(炎症反応)・肝酵素(GOT・GPT・ALP・GGT)の上昇 高ビリルビン血症
エコー:胆嚢の形状・大きさ・胆嚢壁の状態・胆管の評価・腹水の有無 などに有効
エコーは胆嚢の状態を知る上で情報量の多い検査で初期段階から末期まで使用有効な検査です。
治療方法と治療費
治療の方法は大きく二つに分かれます。
・外科的治療
胆嚢粘液嚢腫の手術の時期はガイドラインが定まっておらず、獣医師・飼い主さんともに意見が分かれるところです。
治療の選択肢としては
・内科的治療を試みて効果がなければ手術をする
・内科的治療を行い、症状が出てきたら手術をする
・診断されたら無症状でも早期に胆嚢を摘出 など
内科的治療
・定期的に状態のチェック ⇒ 治療中に急変する可能性もある
・適度な運動や肥満の解消に努める
・薬(利胆剤 抗菌薬 強肝薬など)やサプリメント
・基礎疾患の治療(脂質代謝異常 甲状腺機能低下症 副腎皮質機能亢進症 など)
※ 胆嚢粘液嚢腫の専用ドッグフードはないため、市販のフードを使用する場合「低脂肪の療法食(ロイヤルカナン・消化器サポート低脂肪ドライなど)を利用するとよいでしょう。
【内科的治療を適用するケース】
・基礎疾患がある(心臓病など)
・高齢犬で麻酔のリスクがある場合
・飼い主が手術を希望しない場合 など
内科的治療で完治することはありませんが、状態によっては寿命まで症状をコントロールできる場合もあります。
外科的治療(手術)
【無症状でも手術が推奨されるケース】
・エコー画像で胆嚢内の貯留物が多い
無症状でも、ある程度の年齢の犬では手術を勧められることが多くなります。症状が出てからの手術はリスクも高く、また麻酔の観点からも早めに手術をすることが安全と判断されます。
進行して胆嚢破裂の可能性がある場合、破裂する前に手術をすることが重要です。破裂後の手術は死亡率が上がってきます。
【手術のリスク(死亡率)】統計の一例
・胆嚢疾患関連の症状があり手術した場合 死亡率17.1%
胆嚢は一部が肝臓にくっついており、裏側には肝静脈が走行しているため、繊細な手術が必要になります。高度なテクニックが必要であり、手術を行っている動物病院も限られてきます。
症状がない場合の胆嚢摘出術は1時間くらいで終了します。
手術のタイミングを逃すと手術の難易度も上がり、回復にも時間がかかります。また合併症のリスクも高くなります。胆嚢破裂による腹膜炎を合併している場合、周術期の死亡率は40%と、非常に高くなっています。
胆嚢粘液嚢腫の治療については多くの獣医師がブログ記事などで症例紹介などしていますので、参考にして下さい。
胆嚢粘液嚢腫の手術費用
では、手術の費用はいくらかかるのでしょうか?
実際に治療費を公表している動物病院の例を紹介します。
・胆嚢粘液嚢腫摘出術 40万 調布動物医療センター
・胆嚢粘液嚢腫 胆嚢摘出術 3泊4日 25万 ガレン動物病院
このように動物病院によって手術費用は異なってきます。当然状態によって治療費は大きく異なり、胆嚢破裂を起こして腹膜炎などを併発している症例などでは治療費が50万円を超える場合もあります。
胆嚢粘液嚢腫の治療方と予後の関係は?
胆嚢粘液嚢腫の治療ポイントをまとめると
・症状が出てからの手術はさらにリスクが高くなる
・胆嚢破裂を起こして腹膜炎を合併している場合手術の成功率は60%程度
・症状もなくて、内科的治療をしている場合には必ず定期的なチェックが必要
・内科的治療では急変する可能性もある。
胆嚢粘液嚢腫の寿命(余命)
さまざまなケースがあり、ひとまとめにして言うことはできませんが、生存期間中央値をまとめたものを紹介します。
・内科的治療 1340日(約3年半)
・内科的治療後手術 203日
参考:マックス・パーカンスキー(米・獣医師)らの論文 2019
よくある質問
胆嚢を摘出しても犬の体には影響ないのでしょうか?
愛犬がよく嘔吐するのですが、黄色の液体を吐いたり緑っぽい時もあります。なぜでしょうか?
ペット保険は必要?
ペットには公的な保険制度がありません。そのため治療費の自己負担額は100%です。
もしもの時に、お金を気にせずペットの治療に専念できるよう健康なうちにペット保険に加入することをおすすめします。
また、病気になった後では加入を断られる可能性があります。
ペット保険比較表や記事を活用するのがおすすめ!
ペット保険比較アドバイザーでは、ペットに合った保険の選び方やペットの健康に関するお役立ち記事を公開しております。
記事と合わせて比較表も活用することで、ペットと飼い主様に合った保険を選ぶことができます。
また、保険会社のデメリット等も理解できるので、後悔しないペット保険選びができます。
ペット保険への加入を検討されている方はぜひご活用ください。
【犬の胆嚢粘液嚢腫は寿命に影響する?危険な症状や予後も解説!】まとめ
今回、ペット保険比較アドバイザーでは
・胆嚢粘液嚢腫の検査と治療法及び治療費
・胆嚢粘液嚢腫の予後・箇条書き