繁殖犬はかわいそうというイメージがあります。悪徳ブリーダーによる虐待が報道されるからでしょう。コロナ禍の影響でペットを飼い始める人も増えています。かわいがるだけでなく繁殖犬の実態を知ることも重要です。
最近SNSなどで「繁殖犬がかわいそう」といった声が聞かれます。
悪徳ブリーダーの痛ましい事件も多く、そこで被害にあうのが繁殖犬です。
私たちはその実態を知り、できることがないか探していくべきだと考えられます。
この記事では
・ペットのための省令
「犬の繁殖周期」とは
・初めての発情 生後6ヶ月頃
・発情期間 約3週間
・発情周期 半年に1回
・妊娠期間 約63日
雌犬は生後6ヶ月くらいで初めて発情し、平均3週間続きます。
発情期には普段と様子が異なり
- 落ち着かない
- 食欲がない
- 不安そうにする
- オスの近くへ行きたがる
といった行動が見られます。
発情期は半年に1回くらいあり、猫のように日照時間や気温に左右されません。
妊娠すると、出産までの期間はおよそ2カ月と少しといわれています。
悪徳ブリーダーによる残酷な事件例
最近では悪徳ブリーダーによる残酷な事件が多く報道されています。
どのような内容なのか、3つの例を紹介します。
ケース①長野県のブリーダーの場合
販売用の子犬を繁殖させるために飼育していた多数の犬を虐待したとして、長野県警は4日、同県松本市で繁殖場を営む会社を経営していた男ら2人を動物愛護法違反(虐待)容疑で逮捕した。この会社は市内2カ所で計約1千匹の犬を飼育。県警が同容疑で9月上旬に家宅捜索した際には、狭いケージに複数の犬が入れられて排泄(はいせつ)物が大量に放置され、不衛生な状況も確認されたという。
参考:朝日新聞デジタル2021年11月4日記事「劣悪環境で犬362匹虐待か 長野のペット繁殖場の2人を逮捕」
健康状態が悪い犬も多く、一部は保健所に保護されました。またこのブリーダーには様々な問題点が見つかっています。
・保健所への登録数と飼育数の不一致
・変更届未提出
保健所へ届けていた犬の登録数は600頭でしたが、実際には約1000頭の飼育を行っていました。
またそれらの変更届を提出していないため問題となっています。
5年も満たない間に繁殖犬が約400頭増えており、時期的にもコロナ禍の影響だと考えられます。
ケース②福井県の動物繁殖業者の場合
約400匹の犬猫を過密な状態で飼育し、繁殖に使っていたとして、福井県坂井市の繁殖業者が1日、公益社団法人「日本動物福祉協会」から動物愛護法違反(愛護動物に対する虐待)などの疑いで県警に刑事告発された。この繁殖業者は、生まれた子犬や子猫を県内のペットショップなどに販売していたとみられる。
参考:週刊朝日2018/03/01記事「繁殖用の犬猫400匹をすし詰め 福井県の繁殖業者を刑事告発」
この事件はテレビ各局でも取り上げられました。
狭いブロックで囲まれた『マス』に子犬たちがすし詰め状態で飼育されているセンセーショナルな映像が流れ、多くの反響があった事件です。
しかし嫌疑不十分で不起訴となっており、多くの人に不快感を与えています。
ケース③大阪府のブリーダーの場合
大阪府寝屋川市で2月、ブリーダーの女性が犬の繁殖・販売施設で病気やけがをした犬10匹を放置したとして、動物愛護法違反(虐待)容疑で逮捕された事件があった。(中略)
関係者によると、施設には300匹超の犬が飼育され、複数の犬を押し込めた小さなケージがところ狭しと並び、異臭も漂っていた。夏場は室内30度、湿度80%に近い劣悪な環境で、一部の犬には食事が与えられず、必要な治療すら受けさせてもらえなかった。瀕死(ひんし)の状態の犬も複数いたという。
参考:毎日新聞2023/8/7記事「狭いケージに犬300匹 ブリーダー逮捕まで無策の行政に批判 大阪」
この事件では府の対応が後手に回ったと指摘され、虐待された動物を早急に保護する仕組みの不備も浮き彫りになっています。
実は21年9月ごろには同様の虐待情報が、府動物愛護管理センターに寄せられていました。
大阪府は21年度以降、21回の立ち入り調査を実施しました。しかしいずれも虐待事案を見抜くことができず、担当者は「あくまで任意の調査でできる範囲が限られていた」と話しているといいます。
もっと早く虐待を見抜けたのではと、悔いが残る事件です。
ペットブームの裏で増えている「命の軽視」
コロナ禍の影響により自宅で過ごす時間が長くなった中、ペットを飼う人が増えています。
2020年に行われた一般社団法人ペットフード協会の調査によると、2019年と比べて1年以内の犬猫の飼育頭数は14%~16%増加傾向にあります。
入手先は主にペットショップでの購入で、
してるのが現状です。そうなると子犬を増やすために繁殖犬を増やし、例に挙げたような飼育崩壊が起こるのです。
また命を軽視しているのは販売業者だけではありません。
2019年に全国の警察で動物を虐待したとして、動物愛護法違反容疑で摘発した件数は105件だったことを警察庁が公表しています。
警察庁によると、動物の種類別では
- ネコ66件
- イヌ27件
で、他にウマやタヌキ、フェレットなどです。
状態別では、
- 動物を捨てる「遺棄」 49件
- 飼育放棄など「虐待」 36件
- 「殺傷」 20件
だったとされています。
虐待の動画をSNSなどにアップし、視聴者から告発されるといったケースも多くみられます。
悪徳ブリーダーと同様、命の尊厳を軽んじた行動です。一人一人が生き物に対して誠実にあるべきだと考えられます。
悪徳ブリーダーの繁殖用雌犬の環境
刑事告発された悪徳ブリーダーでの繁殖犬の環境は最悪です。
特に出産しなければいけない雌犬にとって感染症を防ぐために清潔な空間は大切なのにも関わらず、これらのブリーダーでは度外視されます。
・狭い金属のケージに入れられている
・お手入れをされないため爪が異常に伸びている
・発情のたびに交配をさせられる
・8歳になっても産めるまでは出産させられる
・交配をリタイアしたら病気で早く亡くなるケースが多い
・フィラリアにかかっている犬も多い
雌犬は体調など考慮されず出産をさせられます。犬の発情期は年に2回訪れるため、1年に2回の連続出産です。。
休む暇を与えず、8歳のシニアになっても変わりません。
長期的に体を酷使するため肉体的にはボロボロで、交配をリタイアした後は早死にする繁殖犬がほとんどです。
このように、メスの繁殖犬は家庭犬のような犬らしい生活を送らせてもらえないことが分かります。
これらの現状を知り、悪徳ブリーダーの活動を阻止すべく声をあげるのが重要だといえます。
利益優先で飼育環境は二の次になってしまう
なぜこのような悪徳なブリーダーが発生するのでしょうか?それは利益優先で繁殖犬を増やした結果です。
飼育スペースを確保するためケージを5~6段に積み重ね、複数頭を1つのケージに入れて頭数を増やします。
増えすぎると掃除も行き届きません。倒壊する危険もあり、健康管理もままならないでしょう。
このように悪徳ブリーダーで飼育されている繁殖犬のほとんどは
状態です。不衛生な狭いケージの中で思うように動けず、散歩にも行けず、犬たちの抱えるストレスは相当なものだと考えられます。
このように利益を優先した結果が「多頭飼育崩壊」となるのです。
ペットショップでの購入が悪いというわけではありませんが、保護犬や保護猫という選択肢があることも忘れてはいけません。
犬や猫を飼いたいと思った時、どこから迎えるかをしっかりと考えるのが重要です。
数値規制
このようなひどい環境で犬を飼育している一部の劣悪な繁殖業者を抑制すべく、飼育環境について数値を定めるように法改正がされました。
飼育環境などについて
・出産回数
・スタッフの人数
など明確な数値が定められること
今後は、環境省の改正動物愛護法に関する「第一種動物取扱業者及び第二種動物取扱業者が取り扱う動物の管理の方法等の基準を定める省令(省令基準)」によって摘発の対象になります。
この省令は
- 悪質な事業者を排除するために、事業者に対してレッドカードを出しやすい明確な基準とする
- 自治体がチェックしやすい統一的な考え方で基準を設定
- 議員立法という原点と動物愛護の精神に則った基準とする
というポイントに沿って進められ、2020年4月に公布されました。
全ての項目について2021年6月に施行するとされていましたが、事業者からは「廃業せざるを得なくなる」といった基準の緩和を求める声が多く寄せられ、いくつかの項目について経過措置を設けています。
さらにあるペットショップチェーンの幹部らから
- 廃業するブリーダーが増え、犬や猫が山奥に遺棄される
- 行き場を失くす犬や猫は13万頭になる
といった反論により、完全施行は2024年6月に後ろ倒しとなっています。
この数値規制により、負担がかかる出産や行き届かないお世話がみられるブリーダーやペットショップの減少が期待できます。
数値規制で犬や猫の負担が本当に軽減されるのか、特に注目される内容を掘り下げてみましょう。
生涯に6回の出産
基準⑥ 繁殖回数・方法 関係
個体ごとの繁殖生理に合わせた管理を義務付ける基準とする
犬:生涯出産回数は6回まで、かつメスの交配は6歳まで(満7歳未満)
ただし、満7歳時点で生涯出産回数が6回未満であることを証明できる場合は、交配は7歳まで
※譲渡促進の観点から、発情周期の長い、短いにかかわらず、産ませられる限りは産ませるという状況を放置せず、できる限り早い段階で譲渡されるための効果的な施策を推進するための新たな議論の場を設置する。
参考:「適正な飼養管理の基準の具体化について」
つまり、犬の出産は1年に1回にとどめておくという意味です。また1歳未満であろうとなかろうと、年齢や出産回数にかかわらず繁殖に適さない個体は交配を認めないとされています。
現状悪徳ブリーダーが行っている1年に2回の出産よりかは良い状態になるでしょう。ただし子犬を産ませるのは3歳程度までとしている優良なブリーダーと比べると、やや負担になるのではと考えます。
生後6ヶ月頃に訪れる初めての発情では体が未熟なため、一般的には2回目の発情以降に交配をさせて出産させます。
それから3歳程度までと考えると、生涯6回出産も多いと感じるのではないでしょうか。
利益と運営を考えると6回がボーダーラインなのでしょうが、扱っているのが生き物だと認識する必要があると考えられます。
省令の問題点
この省令は悪徳ブリーダーに規制をかけることが可能です。そのため期待できる改正だと言えるでしょう。
しかし、まだまだ懸念点や疑問点は挙げられます。
・ブリーダーで6歳を過ぎて繁殖をリタイアしたら犬はどうなるのか?
省令では出産回数をどうやって管理するのかが具体的に明示されていません。確認する方法もなく、ブリーダーからの自己申告のみです。
業者がごまかせないようなルールが必要で、今後の課題になるでしょう。
また6歳で早々に繁殖をリタイアした犬がどうなるのかも問題点です。
動物愛護法に違反する悪徳ブリーダーの下で
- より劣悪な環境で生き続ける
- 安楽死を強いられる
などの不安が残ります。
規制の先で悪徳業者がどのような行動を取るのか、先手を取ることが必要です。
飼育スペースや飼育頭数がルール化
飼育スペースや飼育頭数は、ブリーダーだけでなくペットショップでも注意すべき事項です。
守らないと罰則が科せられます。
飼育スペース
2022年6月には「ケージなどのサイズ・構造」や「運動スペース」の明確な数値規制に合わせた対応が義務付けられました。
タテ体長の2倍×ヨコ体長の1.5倍×高さ体高の2倍
ケージサイズの床面積の6倍×高さ体高の2倍の運動スペースを確保し、1日3時間以上は運動スペースで運動させることを義務付ける
犬の体長とは「体の長さ」、体高とは「四つ足がついた状態で立った時の地面から背中までの高さ」です。
またケージの構造として
- 金網の床材としての使用の禁止(四肢の肉球が傷まないように管理されている場合を除く)
- ケージ等及び訓練場に錆(サビ)、割れ、破れ等の破損がないことを義務付け
環境管理として
- 動物の健康に支障が出るおそれがある状態(寒冷時や高温時に動物に発現する状態)の禁止、温度・湿度計の設置を義務付け
- 臭気により環境を損なわないように清潔を保つことを義務付け
- 自然光や照明による日照サイクルの確保を義務付け
とされています。
動物が運動不足でストレスがかからないよう運動時間も義務付けられ、閉じ込められっぱなしの軽減が期待できます。
飼育頭数
多頭飼育崩壊を防ぐためにも、飼育頭数とお世話をする従業員の人数を数値化し義務付けました。
繁殖犬は15頭まで、販売犬は20頭まで飼育可能(親と同居している子犬は頭数に含めない)
現行基準では「飼養施設の構造及び規模並びに動物の飼養又は保管に当たる職員数に見合ったものとすること」とされていましたが、多頭飼育崩壊の増幅を鑑みて改正案では数値化されています。
従業員は正規・非正規雇用にかかわらず週40時間勤務で「1人」の換算です。
例えば、週20時間勤務の従業員が2人いる場合には、2人で1人換算となります。計算方法も含め細かい規制が設けられています。
2022年6月→販売30頭・繁殖25頭
2023年6月→販売25頭・繁殖20頭
2024年6月→販売15頭・繁殖20頭
2024年には、第三者による販売業者(ペットショップなど)に対する飼育頭数の見直しが行われているのが分かります。
参考(先進国の頭数)
国名 | 犬の頭数/従業員1人当たり | 猫の頭数/従業員1人当たり |
---|---|---|
日本 | 繁殖犬15頭、販売犬20頭まで | 25頭まで |
イギリス | 繁殖業は参考割合として成犬20頭程度 | 繁殖業に対する規制なし |
フランス | 数値での規定なし | |
ドイツ | 繁殖犬10頭まで | 数値での規定なし |
参考:「適正な飼養管理の基準の具体化について」
日本以外のペット先進国では、ペットショップでの動物の販売がありません。
犬を飼うためには
- ブリーダーからの直接購入
- 保護権をお迎え
といった方法となります。
ペット先進国といわれる国々は日本のようにペットをモノ扱いせず、国全体でペットを家族として考えています。
ペットに対する法律も厳しく、飼育者には「犬税」が課せられる国もあるほどです。
このような考え方が国民全員にできていれば、「多頭飼育崩壊」や「悪徳ブリーダー」などといった言葉は生まれないでしょう。
ペット先進国を見習ってペットのための法律をしっかりと作り上げ、国ぐるみでペットを家族として扱うことが大切だと考えられます。
負の連鎖を断ち切るために必要なこととは?
悪徳ブリーダーが出現するのは、コロナ過でペットの需要が増え、それに便乗しあくどい手を使って利益を増やそうとするためです。
日本ではペットショップで犬や猫を購入するのが主流となっています。ペットショップで犬や猫が売れると、悪徳ブリーダーの数も増えるでしょう。
またペットショップで子犬や子猫の納入数が増えれば、それだけ売れ残るペットも多くなります。
売れ残って殺処分されるペットの数を減らすため、アメリカのいくつかの都市ではペットショップで犬や猫を売ることが禁止されました。
殺処分を減らすためには
という結論に達したためです。
生体販売が禁止されている都市でペットが欲しい人は
- 優良ブリーダーから購入
- 「アニマルシェルター」といわれる動物保護施設
でお迎えします。
日本のペットショップでは、売れ残っても決して殺処分されることはありません。
そのためアメリカのように殺処分を懸念する必要はありませんが、ペットショップで売れ行きが良くなると悪徳ブリーダーが増える可能性が出るのも事実です。
ペットショップで検討しているのであれば、子犬や子猫の状態をしっかりとチェックしましょう。悪徳なブリーダーから購入しないことが重要です。
きちんとお世話をし、愛情をもって接している優良ブリーダーで生まれたペットを選びましょう。
よくある質問
ペットショップで販売されている犬は運動させていますか?
規定以上の広い部屋で決まった時間運動後、休憩させるといったサイクルです。
他にも適切な温度や湿度の設定、夜間に休息を確保するために照明の制限など、動物のストレスにならないよう適切に配慮されています。
販売業者で飼育放棄など虐待されていた場合、どのようにして発見されるのですか?
そのため、虐待が疑われるような状態だった場合は健康診断の際に発見することが可能です。
ペット保険は必要?
ペットには公的な保険制度がありません。そのため治療費の自己負担額は100%です。
もしもの時に、お金を気にせずペットの治療に専念できるよう健康なうちにペット保険に加入することをおすすめします。
また、病気になった後では加入を断られる可能性があります。
ペット保険比較表や記事を活用するのがおすすめ!
ペット保険比較アドバイザーでは、ペットに合った保険の選び方やペットの健康に関するお役立ち記事を公開しております。
記事と合わせて比較表も活用することで、ペットと飼い主様に合った保険を選ぶことができます。
また、保険会社のデメリット等も理解できるので、後悔しないペット保険選びができます。
ペット保険への加入を検討されている方はぜひご活用ください。
【繁殖犬をかわいそうな子にしないために。私たちができることとは?】まとめ
今回、ペット保険比較アドバイザーでは
・ペットのための省令