この記事では
・甲状腺機能が低下の症状
・甲状腺機能低下症の原因・検査・治療・治療費
「甲状腺機能低下症」とは
犬の甲状腺機能低下症とは、甲状腺ホルモンの分泌や産生に障害が起きて血液循環中の甲状腺ホルモン濃度が低下する病気です。
甲状腺ホルモンは全身の新陳代謝の触媒的な役割を担っており、不足すると全身に不調が生じてきます。不足している甲状腺ホルモンを内服薬で補うと症状は改善されますが、治療は生涯にわたり必要です。
犬の甲状腺機能低下症はどんな症状?
犬の内分泌疾患で二番目に多いのが「甲状腺機能低下症」です。ここでは甲状腺の働きや機能低下でどのような症状が出てくるのか解説します。
そもそも甲状腺とは何?
甲状腺は首の前側(気管の横側)にある一対の豆粒ほどの小さな組織で、甲状腺ホルモン(サイロキシン・T4、トリヨードサイロニン・T3)を分泌しています。
甲状腺ホルモンは動物が生存するために必要な代謝に関与する大きな役割を担い、血液に乗って全身の細胞に働きかけ新陳代謝を活発にします。
【甲状腺ホルモンの役割】を具体的に示すと次のようになります。
・タンパク質・酵素の合成
・炭水化物・脂質の代謝
・自律神経を刺激して体温を調節
・心臓や消化器官など内臓の働きを調節 など
甲状腺ホルモンが不足すると、全身の新陳代謝が落ちるためにさまざまな症状が現れてきます。
症状は「これといった特徴的なものではなく」どの症状も他の疾患でも見られるものです。
発症はシニア犬に多く、「老化による症状」にも見えるため、初期症状はみのがされがちです。
症状その① 見た目や動きに変化が見られる
「なんとなく元気がない。年のせいかなあ」と思えるような症状です。実際に中・高年で発症することが多い疾患で、7歳くらいから多くみられるようになります。
・肥満(約50%に認められる)
・元気がなく歩きたがらない
・おとなしく、静かで、よく眠る
・むくみ/悲しげな表情(Sad Face)※ など
※ 甲状腺ホルモンは代謝を上げるホルモンなので、不足すると体内の物質や水分の代謝がうまくできず、全身にむくみが生じます。
むくみの重症化したものが粘液水腫と呼ばれる症状でSad Face(悲しげな風貌)もその一つです。顎や目の上のむくんだ状態が「悲しげな表情」に見えるのです。
症状その② 皮膚に変化が見られる
皮膚の新陳代謝がおちて、ターンオーバー(皮膚の周期的な生まれ変わり)にも大きく影響してきます。
甲状腺機能低下症の犬に最も顕著に表れるのが皮膚症状で、80%に認められます。
・ラットテール(尻尾の脱毛)
・脱毛
・難治性の膿皮症 など
犬によく見られる膿皮症ですが、治療をしていてもなかなか治らない場合、甲状腺ホルモンの不足が原因のこともあります。
症状その③ 神経的な変化が見られる
甲状腺ホルモンが不足すると全身がエネルギーを使用しにくくなり、身体機能が低下します。同時に神経系統や心臓に対する影響も大きくなります。
神経症状は比較的少なく全体の5~10%に認められます。
・四肢のふらつき
・顔面神経麻痺/内耳神経麻痺
・旋回
・斜頸(頭が横に傾く)
・傾眠/嗜眠
・粘液水腫性昏睡※
※粘液水腫性昏睡は甲状腺機能低下症を放置して極端に甲状腺ホルモンが不足した場合に発症します。まれな症状ですが低体温を伴う昏睡になることが多く致命的な症状です。
その他心臓に関しては、徐脈/不整脈(10~25%)が認められます。
犬の甲状腺機能低下症の原因は?
甲状腺機能低下症はどのような原因で発症するのでしょうか。
甲状腺そのものの機能が落ちている場合
犬の甲状腺機能低下症の原因のほとんどが甲状腺の機能が落ちている「原発性甲状腺機能低下症」です。
【甲状腺に異常がある疾患】甲状腺の破壊または委縮が75%を超えると臨床症状が出現します。
・特発性(原因不明)甲状腺委縮
・甲状腺腫瘍
※【リンパ球性甲状腺炎とは】
犬の甲状腺機能低下症の原因のほとんどを占める疾患で、自己免疫疾患と考えられています。免疫系は元来細菌やウイルスなど、自己とは異なる異物を排除するものです。
しかし、免疫系が本来の働きをせずに自己の正常な細胞や組織に過剰に反応して攻撃を加え、「自分の組織を自分で破壊」する疾患です。
中枢性甲状腺機能低下症~下垂体性(二次性)甲状腺機能低下症・視床下部性(三次性)甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンの量は間脳の視床下部により監視されて綿密にコントロールされています。
【甲状腺ホルモン分泌の仕組み】
①間脳視床下部:甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)を分泌
②脳下垂体:甲状腺刺激ホルモン(TSH)を分泌
③甲状腺:甲状腺ホルモン(T3/T4)を分泌
このように甲状腺ホルモン量は脳下垂体、さらには間脳視床下部の指令によってコントロールされているのです。
そのため、甲状腺の機能は正常であっても指令を出している視床下部や下垂体に異常が生じると甲状腺ホルモンは適切な分泌ができなくなってしまいます。
要注意!甲状腺機能正常症候群(ユーサイド・シック・シンドローム)との識別
甲状腺機能は正常でも甲状腺ホルモンが不足する状態がユーサイド・シック・シンドロームです。
【甲状腺ホルモンが不足する原因となる疾患】
抗てんかん薬、副腎皮質ステイロイド剤などの一部の薬剤でも甲状腺ホルモンが低くなることがある
甲状腺機能低下症と診断する前には、その他の病気や使用している薬剤などとの関係性を確認しながら行います。
こうした状況下では治療薬としての甲状腺ホルモンの補充は必要ありません。誤って投与すると健康被害が生じます。
犬の甲状腺機能低下症の治療法と費用
では、実際の治療法と治療費の話に移ります。
飲み薬による内科的治療
甲状腺機能低下症は「はっきりとした症状が見えなく、どんな病気にもあてはまるような状態」なので確定診断が必要になります。
【甲状腺機能低下症の検査】
・甲状腺ホルモン(サイロキシン→T4 )
・エコー(委縮の度合いの確認)
・CT(どうしても必要な場合)
さらに必要に応じて血液検査の項目が追加されます。
【甲状腺機能低下症の治療】
正確に診断ができれば治療はいたってシンプルです。機能低下によって不足している甲状腺ホルモンを補充すればよいのです。
合成「レボチロキシンナトリウム」製剤など、錠剤や水薬で投与します。
治療を開始すると行動は1週間で、皮膚の状態などは1カ月から数カ月で症状の改善改善の兆しが見られます。
薬剤の血中濃度をチェックしながらの内服治療は生涯にわたり必要ですが、うまくコントロールできれば元気で過ごすことができます。
【治療の実際】
最初は甲状腺ホルモン剤を投与しながら量の微調整を行います。
・少ないと、効果がでない
・多すぎると甲状腺機能亢進症となる
【甲状腺ホルモンの量が多すぎた場合の症状】猫によく見られる「甲状腺機能亢進症」の症状です。
・怒りっぽい 攻撃性
・興奮しやすく時に凶暴になる
・多飲多尿
・食べるのに痩せる
このような症状が出ると、一時治療を中止して症状が落ち着くのを待ち、薬の量を調整しながら治療を再開します。
【受診の頻度は?】
・初診時、確定診断のための検査を行う
・服薬量の調整が終わるまでは1~2ヶ月に一度受診・検査
・服薬量が定まれば3~6カ月に一度の受診・検査
治療を開始すると皮膚や被毛のトラブルが改善すると治ったようにも見えますが、甲状腺機能低下症は治ることはありません。
薬の必要量が維持できているために元気で過ごせているのですが、薬を中止すると必ず再発します。
甲状腺を摘出する手術を行う外科的治療
甲状腺腫瘍の場合などは摘出が必要になります。また化学療法などが併用される場合もあります。
甲状腺腫瘍を摘出しても甲状腺機能低下症が改善されるわけではありません。摘出するとホルモン分泌ができなくなるので、投薬治療が必要になります。
甲状腺機能低下症の治療は一生続く
甲状腺機能低下症は治ることはありません。薬によって不足しているホルモンの補充は生涯続けなくてはなりません。
しかし、きちんと薬の量がコントロールできていれば元気な犬たちと同様の生活ができます。
甲状腺機能低下症の治療費は?
アニコム家庭どうぶつ白書2021によると年間治療費は以下の通りです。好発犬種の例をピックアップしてみました。
犬種 | 平均値(円) | 中央値(円) | 最頻値年齢 | |
アメリカンコッカースパニエル | 78,203 | 45,917 | 11歳 | |
ゴールデンレトリーバ | 92,428 | 70,048 | 10歳 | |
柴 | 83,652 | 56,300 | 12歳 | |
ピーグル | 94,830 | 69,174 | 12歳 |
初診時には検査が必要になります(必要費用の一例)
初診 | 1,500円 |
検査 | 5,000円~ |
甲状腺剤 1週間分 | 2,000円~ |
計 | 8,500円程度~ |
初診時は特に検査項目によって大きく治療費が変わってきます。初診時にはT4検査に加え、一般の血液検査も行われます。血液検査の内容やエコー検査の有無などにより治療費は全く異なってきます。
甲状腺ホルモンの検査は一般的にはT4が基準になりすが、加えて遊離サイロキシン(fT4)、甲状腺刺激ホルモン(cTSH)を合わせて検査するとそれだけで15,000~20,000円が必要になります。
【治療費の目安】
・薬の調整が終わるまでは治療費 10,000円程度(検査・内服薬)
・薬の調整が終わった後は受診時 6,000~8,000円程度(検査・内服薬)
・内服薬のみの料金は 4,000~8,000円/月
ちなみに、甲状腺ホルモン量を測定するT4の検査費用は動物病院によって大きく異なります。いくつかの病院の検査料金を調べてみましたが3,500~7,000円と幅広くなっています。
日本獣医師会が実施したアンケート(H26年)によるとT4の検査料金の中央値は4,313円となっています。
犬の甲状腺機能低下症の予防方法
犬の甲状腺機能低下症の予防方法にはどんなものがあるのかということになると、残念ながら直接的な予防方法はありません。
早期発見のため健康診断をする
具体的な予防方法がないため、早期発見のためには定期的な健康診断が必要になります。甲状腺機能低下症は7歳くらいの中年期から発症することが多いので、健康診断で甲状腺ホルモンのチェックをすることで早期発見ができます。
また、動物病院を受診する機会があれば、甲状腺ホルモンの検査をお願いしてみるのもよいでしょう。
動きや皮膚の状態をチェックする
「なんだか様子がおかしい」というのは飼い主さんだからこそ気づけることです。コミュニケーションの意味も含めてこまめに皮膚の状態をチェックしましょう。
犬の甲状腺機能低下症を起こしやすい犬種
甲状腺機能低下症はどの犬種にも発症する可能性はありますが、ミニチュア種やトイ種での発症は少ないです。
主に大型犬・中型犬にみられることが多く、中年以降の発症が多くなっています。
【甲状腺機能低下症の好発犬種】
・オールドイングリッシュシープドッグ
・ドーベルマン
・ダックスフンド
・アイリッシュセッター
・ミニチュアシュナウザー
・ゴールデンレトリバー
・ボクサー
・コッカースパニエル
・エアデールテリア
・ピーグル
・柴犬
・シェルティ など
犬の甲状腺機能低下症はペット保険で補償される?
いぬの子宮蓄膿症の治療費はペット保険でも基本的には補償されますが、補償の対象外となっていないか必ず保険約款や重要事項説明書を確認するようにしてください。
また上述したとおり、犬の甲状腺機能低下症は犬種によっては平均でも年10万円近くの治療費が必要になります。
基本的には内科治療が中心になるので「手術・入院補償特化のペット保険」ではなく、「通院・手術・入院を補償するフルカバー型のペット保険」がおすすめです。
犬の甲状腺機能低下症において注意したい補償内容
ほとんどのペット保険が一年契約となっており、契約を毎年更新していくことで終身の補償となっています。
つまり、ペット保険に加入すると毎年契約更新の審査があります。
中には「前年度にかかった傷病や慢性疾患」等の、特に治る見込みが少ない、再発の可能性が高い慢性疾患を、更新の際に「来年度から補償の対象外とします。」と条件を付け加えてくる保険会社があります。
もちろん中には「更新の際に条件を付け加えることはありません」といった記載をしているペット保険もあります。
犬の甲状腺機能低下症が治ることが無く、発症してしまえば一生の付き合いが必要な病気です。
そのため、上記のようなペット保険だと来年度から甲状腺機能低下症の治療費は補償の対象外とされてしまう可能性があります。
加入を検討しているペット保険会社の「更新時の対応」についても必ず確認することをおすすめします。
また、ペット保険比較アドバイザーではそういった情報も一つの記事内でまとめていますのでぜひ一度ご確認ください。
犬の甲状腺機能低下症におすすめのペット保険をご紹介!
ペット保険比較アドバイザーでは、犬の甲状腺機能低下症に対しておすすめのペット保険をご紹介します。
おすすめの理由としては、犬の甲状腺機能低下症を補償するのはもちろん、下記3点の通りです。
・「更新時に特定の病気や部位を補償の対象外とすること」はありません。という旨がHPや重要事項説明書・保険約款に記載されているペット保険
・通院補償が他社と比較しても手厚い
犬の甲状腺機能低下症の治療を考えると、一番おすすめはアニコムです。
アニコムに関しては窓口精算や年一回無料で受けられる腸内フローラ測定等、付帯サービスが充実しています。
また、ペットを伴わない薬の受取ができるのはアニコムだけです。
・補償内容や保険料を重視 → PS保険
一部PS保険は手術の補償金額が1回あたり最大10万円だったり不安な点はありますが、先天性疾患や更新時の対応が他社より優れています。
ただし、細かい補償内容や金額についてはもちろん違いがありますので必ず重要事項説明書や保険約款、パンフレットや公式HPを確認してください。
あくまで参考ですが、保険料重視であればPS保険、補償内容重視であればアニコム(ふぁみりぃ)に加入することをおすすめします。
メリット | デメリット | |
・複数回通院にも強い ・「腸内フローラ測定」等の予防型サービスも付帯 ・通院補償は一日当たり14,000円×年20日まで(補償割合70%プラン) ・窓口精算可能 ・ペットを伴わない薬の受取だけの治療費も補償 |
保険料が高い
※健康割増引制度により保険の利用状況によって割増引の適応【可】 |
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保険料が安い | ・1つの病気に対しての限度額・回数があり (更新時にリセットされない) ・手術は一回当たり最大10万円まで |
弊社の商品の保険期間は1年間ですが、ご契約には「継続契約特約」を適用して引受をさせていただいておりますので、解約等のお申し出がない限り満期後は、原則ご契約は自動的に継続となり、終身ご継続いただけます。
※ご注意
・ご契約者または弊社より別段の意思表示があった場合には、ご契約は継続となりません。
・自動的にご契約が継続とならない場合や、商品改定により保険料、補償内容などが変更となる場合があります。
引用:重要事項説明書
罹患した病気やケガにより保険の更新をお断りしたり、更新時の補償対象外にしたり、保険料を増額にすることはございません。(※保険料の改定などがあった場合、保険料は変わります。)
ケガ、病気の原因が生じた時が保険期間内であれば、皮膚病や外耳炎等の軽度の病気から、ガンや心臓病等の重大な病気まで補償の対象となります。
補償内容やそれぞれのデメリット等がより気になる場合は下記の記事を参考にしてください。
補足:先天性疾患が発症する前に!遅くとも7.8歳までには加入しよう
ペット保険は、加入する前に発症している先天性疾患や既に発症している病気や疾患は補償の対象外となります。
そのため、病気になってから保険に加入しようとしても、肝心のその病気の治療費は補償の対象外になってしまいます。
また、加入後に発見できた病気であっても先天性疾患を補償の対象外としているペット保険や、慢性疾患にかかると更新できない保険もあります。
また一般的にペット保険では8~12歳で新規加入年齢を設定していることがほとんどです。早いところでは7歳で新規加入を締め切るペット保険もあります。
「健康なうちに加入しないと意味がない」「また年齢制限に引っかからないから保険の選択肢が広がる」という意味で遅くとも7~8歳までにはペット保険の加入、少なくとも検討をすることをおすすめします。
補足ですが、アニコムやプリズムコールではシニア向けのペット保険商品もあります。
高齢・シニア向けのペット保険については下記の記事でも解説していますのでぜひ参考にしてください。
よくある質問
犬の治療薬を飼い主が取りに行った場合、ペット保険の補償対象になりますか?
甲状腺機能低下症の治療薬の費用を抑えたいのですが、ネットで購入してもよいでしょうか?
ペット保険は必要?
ペットには公的な保険制度がありません。そのため治療費の自己負担額は100%です。
もしもの時に、お金を気にせずペットの治療に専念できるよう健康なうちにペット保険に加入することをおすすめします。
また、病気になった後では加入を断られる可能性があります。
ペット保険比較表や記事を活用するのがおすすめ!
ペット保険比較アドバイザーでは、ペットに合った保険の選び方やペットの健康に関するお役立ち記事を公開しております。
記事と合わせて比較表も活用することで、ペットと飼い主様に合った保険を選ぶことができます。
また、保険会社のデメリット等も理解できるので、後悔しないペット保険選びができます。
ペット保険への加入を検討されている方はぜひご活用ください。
【犬の甲状腺機能低下症】まとめ
今回、ペット保険比較アドバイザーでは
犬の甲状腺機能低下症の
・治療法
・治療費用